観光デザインの意義

日本は観光発展途上国⁉︎

観光産業のチャンスとピンチ

最近テレビなどで「世界から人気の日本!」というような特集をよく目にします。あたかも日本が世界一の観光国のように思ってしまいますが、サービス、受け入れ体制、来訪外国人数観光客数を見るに、世界はおろか、アジア諸国の中でもまだまだ日本は観光発展途上国です。逆に言えば、日本の観光産業は今後成長が約束された産業ともいえるでしょう。

 少子高齢化の日本において「短期移民の誘致」ともいえる観光産業はそう遠くない未来、日本経済を支える主要な産業の一つとして成長していくことは予測されますが「よそ者」である観光客がもたらすものはメリットだけではありません。

私たちの嵯峨美大がある京都に目を向けると、今でさえ観光客でパンク気味のこの街で生活する住人たちは、すでに観光客にうんざりしています。どこもかしこも観光客で溢れ、電車やバスは大混雑し、地元住民はピリピリしていて、都の風情もどこへやら。そんな京都は魅力的でしょうか?

寺社や温泉など、観光地の目玉となるモノを「観光資源」と言います。石油などと同じく資源は持続可能な方法で計画的に使わないと、いずれ枯渇してしまいます。観光資源の枯渇とは魅力の喪失です。

つまり「観光客が増えること=良いこと」とは言い切れないわけです。そう考えると、これから発展していくであろう観光発展途上国の日本は現在、チャンスとピンチを同時に抱えていると言えます。

わかりやすく言うと、

日本の観光産業は、今まで一部のマニアに熱狂的に支持されていた漫画作品が、にわかに一般的にも話題の人気作品になりつつある状態。

にとても似ています。

人気になったことで、グッズ化やゲーム化など、お金をかけた良質なコンテンツが作られる可能性もありますが、

いろんな大人の事情から、雑な実写映画が作られ、古参ファンが離れていくかもしれない。

まさにチャンスとピンチを両方抱えている状況です。


こういった状況の中で、

観光デザインは、 

観光のあり方を学びながら、

観光をより良いものにしていくための各種デザインワークや、

観光コンテンツの創造を通して、

デザインと社会との接点を意識しながら課題に取り組みます。

デザインの視点から観光をより良く、面白くする提案を行う。これが観光デザインの使命です。

美大で観光を学ぶということ

クリエイティブ × ツーリズム

また、観光とは「非日常を求めて生活圏外へと旅立つ行為」です。

 観光と言えばお寺巡りやバスツアーなどを連想されるかもしれませんが、SNS等の発達による新たな情報の発信や価値観の共有化によって観光の在り様もガラリと変わりました。

寺社巡りからアニメの聖地巡礼、インスタ映えを求めての旅から地域の妖怪伝説を再現する妖怪仮装行列までその対象は多岐にわたります。歴史物語も古典美術も民俗文化もポップカルチャーもすべてターゲットです。 

「日常の中に非日常を演出する」こと

が芸術の持つ役割のひとつであるとするならば、観光を学ぶにおいて芸術的視点を持つことがとても重要であると言えます。

また、芸術活動におけるひとつのシーンとして、観光の現場はチャンスに溢れているとも言えます。

観光デザインは、フィールドワークと観光コンテンツの制作を通して「芸術による社会貢献」つまり「(皆さんがやりたいこと)と(社会)との接点」を意識しながら課題に取り組みます。それは「卒業後の進路」にも影響することです。